Diary of a Madman

癲狂院に置かれた或る一冊のノートブック
狂気の記憶が焼き付いた、深淵なる倒錯の記録の数々。
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加山又造展

加山又造展 | 2009年1月21日(水)~3月2日(月) 国立新美術館

 
 どうしても見たいと思っていた展示会、加山又造展。
見終えた直後の感想は、「見応えたっぷりの内容だった」でした。以前、東京国立近代美術館で琳派展や加山又造 + 所蔵作品展で、加山又造の絵を知って「わりと好みの画家」ではあったのですが、今回の展示会を見て、お気に入りの画家のひとりになりました。

 美術や絵画の専門的な知識はない素人ですが、個人的に或は「このブログ的」にお勧めの展示会です。琳派が好きな人ならもちろん、琳派も含めて日本画とか古くさいしあんまり.....なんて言う人にもお勧めです。今回は久しぶりに弟も一緒でした。デザイン関係は好きみたいだけど絵画は別に、という感じなのに、今回のは割とウケた様子でした。日本画とか古くさいし....なんて言う、ずばりそんな弟でしたので。でも見るまでは散々なことを言ってたなあ。「どうせ会場はじーさんとかばーさんばっかりなんだろ?」とか失礼な事を色々。たしかに日本画だからその傾向はあります。でもそれって若い人に日本画の偏見があるのだと思います。たとえば大和絵、雪舟などの水墨画などはともかく、近代でも伝統を受け継いだ横山大観、或は西洋のエッセンスを取り入れた東山魁夷でも、たしかにそう思われるふしもあるかもしれません。(個人的にはそうは思わないが) 

 しかし琳派、とりわけ加山又造の作品は、かなりデザイン的な絵画だと思います。特に加山又造のは、琳派をさらにモダンに押し進めたコンテンポラリーな琳派だと思います。そのことは公式サイト内に紹介されている作品からも窺えると思います。

 サイトには紹介されていませんが、七夕や天の川を題材にした作品などは印象的でした。たしかにそれまでの琳派のスタイルではあるのですが、画面構成やその題材が斬新でとても驚きました。幻想的で宇宙的というか....ある意味SF的というか、非日常的な空間が描かれている日本画、という感じ。表現という意味では水墨画も頭に思い浮かべるものとは違い、見る作品ひとつひとつに驚かされました。金屏風に黒い牡丹が描かれた「牡丹」は金と黒の強烈なコントラストの中に妖しく輝くようでしたし、「華と猫」は日本画には従来出てこなかった様な長毛種であるペルシャ猫が描かれた和む作品.......。また描かれる動物などが特に顕著だったと思うのですが、輪郭が美しい。狼、キリン、ゾウ、鳥、そして竜.....何と言うか輪郭だけは写実的というか各々の動物の躍動感を表しつつも美しさと併せ持たせる様な線を描くと言うか.........。


 もうひとつは何と言っても裸婦画です。レースを纏った裸婦画の一連のシリーズのひとつを以前見ているので、その素晴らしさは一応分かっているのですが、今回は四曲一隻の屏風など、非常に大きいサイズのものがいくつも展示されていて、その美しさとともに魔的な雰囲気が漂っていました。(....と思いたい) 前に見たのは屏風ではなくコンパクトなサイズに黒薔薇と白薔薇の模様のレースをそれぞれ纏った裸婦の絵が対になって飾られていたものでした。が、今回は屏風絵。裸婦画の屏風絵なんて斬新すぎます。しかも薔薇のレース模様だなんて。これらの絵は裸婦がレースを纏っているだけでなく残りの背景にもレース模様が敷き詰められています。黒薔薇の方は見やすいですが、白薔薇の方は光を照らす様に見ないと見えませんでした.......。(あんまりまじまじと見ていたら変態とか思われるしなあぁ.....。) この作品だけは個人的にはゴシック調と吹聴したいです。背景に鏤められた華麗なレース模様に流麗な輪郭による裸身との組み合わせが単なる裸婦画ではないもっと普遍的な美を表しているかのように思えます。


 ここで4年前と同じ様に再び引き合いに出してしまうのですが(Diary of a Madman: 谷崎潤一郎 [+] 癲 狂 院)、やはり文豪・谷崎潤一郎と重なる点があるように思えてしまいます。 谷崎は初期の作品では西洋のモダンさを取り入れたりしたものの、後期では「細雪」「春琴抄」に代表される様な日本の美を精緻な文章によって描いています。丸谷才一の解説に確か、谷崎は日本の美を回顧したのではなく美を追求し行き着くところが日本の美だった......と書かれていました。加山又造もまた画家人生の中でたどり着く先が日本の美だったのではないかと思うのです。例えばそれが前述のレースを纏った裸婦画だったり.......。谷崎の「陰影礼賛」でも西洋と日本のそれぞれ女性の美を比較した話が載っていましたっけ。
 そういうわけで新潮文庫の谷崎潤一郎の表紙カバーが加山又造によるものなのはうなずけます。
関係ないですが猫好きで猫を飼っていたっていうのもありますね。w

 
 それと公式サイトで初めて知った装飾品!!! 中でもアームレットはクリティカルヒット! 腕輪ですよ腕輪!!!  加山又造展 | みどころ(第章 生活の中に生きる「美」) 他にも装飾品では花びらのネックレスなども展示してありました。焼き物の器、きものなどもあり、琳派の画家と似たところがありますね。今回の展示作品を見ていると、本当に限界のない自由な美の世界があり、それを満喫出来たことが嬉しく思うとともに、それらがすべてひとりの人間によるものだと思うと、加山又造の素晴らしさ、凄さをまじまじと感じるのでした。


 これは余談ですが、ふたつめの休憩室に飾られていた(映されていた)絵、付随して書かれていた解説文を見てこれにもびっくりさせられました。マッキントッシュにアドビのフォトショップとA3サイズのペンタブによって描かれた小作品。日付が1998だったので、まだ機能的には加山自身には満足出来なかったようですが、今だったらどうだったかなあ....。1998年というとインテュオスも初代が出たばかり?だったような気がするし、ソフト的にもフォトショップはアナログ絵画的な表現は難しかっただろうし、その当時のペインターも.......。ネット上の自分の作品に対する感想などを見て楽しんでいたり、これからのCGなどのデジタルによる絵画の在り方に興味を持っていたようですし、そう思うともっと長生きしてもらいたかったと思わずにはいられません。


 いつものようにカタログを購入しましたが、今回はDVDとのセットのものにしました。DVDセットというのは初めてお目にかかりましたが、これはとても良いと思います。展示内容、カタログと内容がリンクしていて加山又造本人の映像や家族によるコメントなどDVDならではのコンテンツで、これからの展示会ではカタログにDVDが付録するのが定番になりそうな予感がしました。


 というわけで、個人的には既に今年一番の展示会となりそうです。見て良かったーーーーー!!!

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