Diary of a Madman

癲狂院に置かれた或る一冊のノートブック
狂気の記憶が焼き付いた、深淵なる倒錯の記録の数々。
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新日曜美術館にギュスターヴ・モローが!

 もうなんと言い表せばよいやら......。
今日の新日曜美術館は、なんとギュスターヴ・モローを取り上げていました。
.....1時間たっぷりと堪能できました。本当に至福の時でした。NHKに感謝したいくらい...です。


 ギュスターヴ・モロー...、Notebookで幾度となく取り上げているので、もうやめて、なんて言われてしまいそうですが.....ごめんなさい、本当に好きなので書かせて下さい。

 同じNHK教育テレビで放送されている「世界美術館紀行」では、以前ギュスターヴ・モロー美術館を取り上げていましたが、「美術館」という枠内で取り上げられたため、モロー美術館以外に所蔵されている、有名な、「ヘロデ王の前で躍るサロメ」、「オイディプスとスフィンクス」、「出現(水彩)」などは紹介されなかったのが残念でした。今回は美術館という枠はないし、その上放送時間も1時間(厳密に言えば50分くらいですが)ですから、内容の濃さが違いは言うまでもありません。(「世界〜」は30分番組)


 同じフランスでは印象派が時代の先端であり美術の主流であったのにも関わらず、モローは象徴主義という独特の美を追求していたのです。象徴主義という一応のカテゴリーはあるのですが、他の象徴主義の画家(クノップフなど)はまるで別物の様に個人的には見えます。.....「孤高の画家」とも呼ばれます。確かに私生活は俗世界とは隔離した世界を好んでいたようですが(かといって人嫌いとかなのではないし実際長年連れ添った恋人もいたし)、絵自体も同じことが言えるように思えます。

 モロー以前に、絵画の題材として神話や聖書の物語を取りあげるのは、当たり前のことでした。しかしモローの取り上げ方が独特なのです。
 サロメ....元は洗礼者ヨハネの斬首の場面のおまけのような存在だったのが、モローは、(破滅の)運命をもたらす女、すなわちファムファタルのように描くのです。「出現」では、サロメが指差した先には血を滴らせるヨハネの首がそこには「出現」しているのですが、背後のヘロデ王や楽器演奏者、死刑執行人には「それ」が見えていない様な素振りに見えます。誰も踏み込めない血塗られた聖域がふたりのためにそこにはあって、互いを見詰め合い、特にヨハネの首を欲しがる様なポーズをとり、きらびやかな宝石がちりばめられたヴェールを纏うサロメは.....妖しくも美しい。 「オイディプスとスフィンクス」も同様のことが言えると思います。通行人に謎解きをさせ答えられなかった者を殺してしまうスフィンクス、それを難なく解き退治したオイディプス.....ですが、モローのは、まるで男と女のような関係を思わせる様な雰囲気なのです。オイディプスの身体に抱きつく様な格好のスフィンクス、互いの目を見詰め合うふたりの姿は、訳ありの恋人の様にも見えます。張りつめた世界がそこにはあって、謎解きのゲームの駆け引きを演じているかのように見えます。

 それまでの絵画は聖書の内容を見る人に教えるための宗教画としての役割が強かったのもあるのでしょうが、モローの場合は、とにかくありがちな神話の世界ではないことは確かです。言われた通りに、台詞通りに、役を演じる舞台から抜け出し思い思い演じているかの様な劇的さが......本当に大好きです。


 ポースや表情もとても好きです。片手で蓮の花を掴み、もう片方の腕を力強く突き出し、うつむくサロメ、自分が八つ裂きにしたくせに竪琴の上にオルペウスの首を載せて抱き、優しげに俯くトラキアの娘.....、目を閉じた表情が多い様に思うのですが、あの表情が堪らなく好きです。のけ反るポーズもまた好きです。身を捩りうねるようなポーズが妙にリアルで、ぐっときます。
 それらと関連していると思うのですが、「クラシックな絵画」という感じがあまりしないのです。特に目の描かれ方は現代でも充分受けるものだと思えるのですが.....。見る人と絵の間に分厚いフィルターのようなものを感じないんです。描かれている人物などが活き活きしているからかもしれません。カッコ良くて綺麗で重厚で...ポップとさえも感じてしまう位です。

 そして、なにより緻密な設定...。宝飾、服飾、建築、植物....絵の中に描かれているあらゆるものがこれでもかとばかりに細部まで描かれているのには圧倒されます。サロメのヴェールなんかは本当に凄い.....。モローは1枚の絵を描く際に、資料収集によるリアルな描写、綿密な下書きを繰り返していたそうですから、これらの作業が、絵に幻想的ながらもリアルで生々しい表情を与えているのでしょう。

......もうこの辺りでやめよぅ。話すと止まらなくなってしまいます。本当に好きなんだから。 だから今回の番組は本当に楽しめました。そういえば、ナレーターが「世界美術館紀行」の時と同じ人でした。.....もしかして同時に制作していたのでしょうか。話も全く重なりませんでしたし。「世界〜」の方はモローの人生と女性観(ファムファタル)を取り上げつつ絵を紹介していましたが、「新日曜〜」では、モローの神話の取り上げ方や、純粋に絵の紹介をしている感じでした。

......そういえば以前、日経新聞紙上に続けて大きく掲載されたモローの記事についてのコメントしてなかった.....。あれはモローの絵というよりファムファタルについて語られた記事でしたが。

 必ず書くっ。

「オイディプスとスフィンクス」(メトロポリタン美術館)
http://www.artrenewal.org/images/artists/m/Moreau_Gustave/
Oedipus_and_the_Sphinx.jpg

「オルペウスを抱くトラキアの娘」(オルセー美術館)
http://www.artrenewal.org/images/artists/m/Moreau_Gustave/
Thracian_girl_carrying_the_head_of_Orpheus_on_his_lyre_1865.jpg


「出現」(水彩:ルーヴル美術館)
http://www.artrenewal.org/images/artists/m/Moreau_Gustave/
the_apparition.jpg

「出現」(油彩:モロー美術館)
http://antimine.pe.kr/blog/image/Apparition.jpg

......世界で一番大好きな絵。一番大好きなサロメ。
「ヘロデ王の前で躍るサロメ」(アーマンド・ハマー美術館)
http://www.artrenewal.org/images/artists/m/Moreau_Gustave/
Salome_Dancing_before_Herod.jpg

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