Diary of a Madman

癲狂院に置かれた或る一冊のノートブック
狂気の記憶が焼き付いた、深淵なる倒錯の記録の数々。
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私淑三翁

 前々から書こうと思っていたことです。

  誰しも尊敬する人間はいると思います。もちろんこうして今からそのことを書こうとしている自分にももちろんいます。尊敬するといっても、何を以て尊敬するのか、それによって挙げる人物も違ってきます。タイトルの私淑というなら公言してしまっては私淑じゃなくなるじゃないか、と言われてしまいそうですが、その私淑という言葉の意味を以て尊敬する人たちを紹介したいのです。........確かに有名人でもない名も知れぬ一般人の自分が尊敬する人物を挙げたところで、何かになるわけではありません。よくあるプロフィールの「尊敬する人」欄に書かれた人物の如何で書いた人間の浅学非才の程度が知れて晒し者になってしまう、そんな危険を孕んでいます。しかし当ブログは自分のための覚え書きということも兼ねての目的で設置しているので、その意味で書き留めておく事にします。

 私淑三翁というのは以下に挙げる人たちです。

谷崎潤一郎
安藤忠雄
野村克也

もし四翁にするなら、加山又造を含めたいです。

 ここでそれぞれ尊敬する点を挙げてもよいのですが、痛々しくなってしまうので、御三翁まとめて意見を述べたいと思います。

 
 唐突ですが、三翁とも自分には「野獣」だと感じるのです。野獣と行っても獣性のままに獰猛で凶暴な意味のたとえではありません。獲物を冷静沈着そして虎視眈々と狙う、そういう意味では、まさしく獣性たるものと言えるかもしれません。百年も居ない草原で、生き抜くために獲物をその様に狩り続ける、その姿が三翁には見えるのです。

 挙げたうち谷崎だけが故人ですが、ノムさんも前から死に場所はグラウンドだと明言していますし、安藤さんも名が知れて以降のコンペに悉く外れて、「連戦連敗」した経験がありつつも常に挑戦し続けています。大文豪と言われた谷崎も亡くなる数分前まで文を書いていたそうです。

 身が果てるまで獲物に喰らい続ける、ある程度有名になったり地位を確立した後はどうしても守りに入ってしまいがちだと思うのです。十分な蓄えはあり獲物を狩る必要もないわけです。ところが三翁は止まる事も無く常に前進し続けています。これにとても感心するのです。若いうちなら多少の無理も難なく突っ走れるでしょう、しかしどうしても時には勝てない体は衰えてゆく。それでも野獣でいること。戦い続けること。

 
 ここでひとつ自戒の意味をこめて書き留めたい事があります。ただ闇雲に戦い続ければよいというものではないことです。ノムさんがよく言う「努力することは良いが、それが果たして正しい努力かどうか」。正しいかどうかそれをまた正しく判断できるかどうか、そのためには大いに考え時には情報収集もする必要もあるということでしょうか.............、安藤さんも「よく考え本を読め」と若者へメッセージを求められた時に口にする言葉です。コンペを勝ち抜いた建築家のプランを見ると、勝ち抜くだけの理由がそこにはあり、対して負けるプランも同じ様に理由があると安藤さんは言います。勝ち負けの理由云々の話はノムさんもしょっちゅう口にしていますね。

 個人的にそれらを踏まえて考えてみると、いかに「気づくか」という着眼点、そして正確な分析、それから導かれた目標まで着実に到達する努力..........書いてて実行出来ない自分が恥ずかしくなってきます。気づいても実行できなければ意味がなくなってしまいますね。気づかないよりはましかもしれませんが。「結果よりプロセスが大事」とはノムさんの弁です。

 例を挙げると、ノムさんはプロ野球を目指す前は意外にも歌手になろうと志していた時期があったらしいですが、顔がだめだと気づき諦めたとか。安藤さんも建築家になる前の少しの間、プロボクサーをしていたという意外な過去がありますが、たしかある時ジムでファイティング原田の姿を見て、あれでは自分は無理だと悟りボクサーを辞めたらしいです。


 なんかノムさんと安藤さんばっかりですが、谷崎潤一郎は子供の頃から専ら神童として有名だったらしく、学校も校長の勧めで試験を受け飛び級で進級、その後も大学在籍中に文壇デビューですし、なんだかあまり試行錯誤して道を開いたという感じは受けないかもしれません。(それでも谷崎なりに試行錯誤したでしょうが。デビュー直後はよかったものの、その後借金を抱えたり、物書きをしつつも映画監督をやってみたりと、色々やっていたようです。) むしろ谷崎の尊敬したいところとしては、「しぶとく生き抜く」ことでしょうか。同世代の芥川や(文壇の)後輩の太宰が次々と自滅していく中、そんなことには目もくれず我が道を突っ走る図太さ。しかしながら若い頃に神経衰弱に陥ったことがあるようで、すごく意外。友人に「死にたい」と漏らすと「君ほどの才能の持ち主を神がそうそう死なせる訳がないさ」と友人は言い返したとか。..........なんだか友人の言葉にもおもわず頷いてしまいます。

 世の中悪運づいていると言われそうな人はいますね。ビートたけしなんかは事故であのまま死んでいたら、その後の評価がずいぶん変わっていそうでしょう? 事故前から映画は作っていましたが、世間一般どころか世界ににその名が知られたのは事故後のはず。ついでに挙げれば、イングヴェイ・マルムスティーンもそうだしオジー・オズボーンもそうですね。事故起こしても死なない、(加えてオジーの場合)ラリっても死なない。
 

 
 余談ですが、三翁には共通点がまだひとつあります。それは関西方面の人間だということ。(加山又造もそうです。 )谷崎は東京生まれですが震災後は大阪に定住するようになります。それ以来、東京と大阪を引き合いに出しては大阪を贔屓していました。もっとも谷崎の好きだった大阪は何十年も昔のことであって、今の大阪ではないかもしれません。2chでは大阪で事件が起こるたびに民度が低いだのよく揶揄されています。果たして本当にそうなのかどうかは自分には分かりません。実は大阪へは行った事がなく京都も修学旅行へ行ったきりです。まるで縁がありませんので自分にはわからないのです。関東のこちらには無いような魅力が関西にはあるのでしょうか。

 たかだか日本の無数にいる有名人の中の三人を挙げてそれがたまたま関西方面だったからといって、考察するには至らないかもしれませrん。ですが、向こうを知らないだけに妙に邪推してしまいます。

 
 最後に付け加えておくと、世の中に同じ様な「野獣」の有名人はたくさんいることと思います。自分が知らないだけなのもあると思いますが、三翁の存在が自分には何故か妙に合うのです。他人の気がしないといったら怒られるかもしれませんが、不思議と同感することが多いのです。


(2008/6/26)

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